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福岡高等裁判所 昭和52年(ラ)96号 決定

抗告人

森亀一

右代理人

小野正章

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、その理由は別紙記載のとおりである。

二よつて、抗告人らの主張について検討する。

1  抗告理由一について

競売手続における最高価競買人の地位は、その性質上一身専属的なものではないから、最高価競買人は競落期日までにその権利義務を第三者に譲渡しうるものであることは所論のとおりであるが、本件におけるように最高価競買人の呼上のあつた後に、その最高価競買人らが執行官との合意のもとに最高価競買申出が他の者と共同してなされたものでないのに、真実の最高価競買人に次順位の競買申出人らを加えて、当初から共同して競買申出があつたものとして取扱うこととし、不動産競売調書にもその取扱によつた記載がなされると、競売裁判所は、競落許否の決定をするにあたつて、真の最高価競買人は誰か、抗告人主張のような最高価競買人の地位の譲渡があつたかどうか、それが利害関係人の利益、競売手続の公正を害するかどうかを正しく判断することもできないのであつて、このような取扱をすること自体、すでに利害関係人の利害、競売手続の公正を害する危険性を包含し、競売手続の公正に対する関係人の信頼をそこなうものであり、したがつて、競売手続の公正を害するものというべきである。そして、右のような取扱をうけた者は、最高価競買人たる資格、能力なき者として競売法三二条によつて準用される民訴法六七二条第二に該当するというべきである。

2  抗告理由二について

抗告人は、前記主張が認められないときは、抗告人一人を最高価競買人として競落許可決定をされたい旨主張するが、抗告人は、競買申出の保証金を一人で全額直ちに執行官に預けていないことは本件記録上明らかであつて競売法三〇条によつて準用される同法六六四条によつて競買を許すことができないので、右主張も採用できない。

したがつて、抗告人の主張はいずれも採用できない。

三その他、本件記録を精査しても、原決定を取消すべき瑕疵はない。

よつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないのでこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(矢頭直哉 土屋重雄 日浦人司)

別紙抗告の理由

一、競売期日において、執行官が最高価競買人として、申立人、最高競買価額を四、八九〇万〇、三〇〇円と呼び上げた後、申立人、申立外松島公彦、同小笹健市らから、執行官に対し、競買物件を右三名の共有名義にしたい旨の申出がなされ、執行官はこれに応じて、最高価競買申出が右三名共同で行なわれたこととして、競売調書上を最高価競買人を右三名と記載し、本件競落許可決定も右三名が共同の最高価競買人であることを前提になされているが、本件競売における真正の最高価競買人は申立人一人であつて、本件競落許可決定は、最高価競買人でない者に対しなされたことが明らかであり、このような場合は民訴法六七二条二号に該当するというのである。

然し、競売手続における最高価競買人の地位は、その性質上一身専属的なものではなく、不正目的による譲渡など特段の事情のない限り最高価競買人は、競落期日までにその権利義務を第三者譲渡しうること、すでに学説判例の認めるところである(昭五〇(ラ)四〇、昭五〇、八、五仙台高裁一決、昭三五(ワ)一〇一五、昭三八、一二、一一大阪地裁判)。

本件においては、執行官が最高価競買人として申立人を呼び上げた後、前記申立外人らより共有名義にしてほしい旨の申出を受けた申立人が、執行官に相談して、その了解を得て、そのようにしたものであつて、最高価競買人の地位の一部譲渡がなされているとしても、少しも競売手続の公正を害することもなく、不正目的の譲渡とも言えない。いわんや、最高価競買人において、売買契約を取結びもしくは、その不動産を取得する能力なきときに該当しないことも明らかである。本件更正決定はその理由なきものと考える。

二、仮りに、申立人が、前記申立外人らと共同で最高競買人となることができないならば、申立人は、自分一人で買い受ける意思、能力を有しており、偶々申立外人らより申出を受け将来売却その他の都合上、便宜を考え、執行官に相談してそのようにしたものであり、もし、そのため競落が許可されないということであれば、前記申立外人らも了承していることであるので、再競売に移行するのを防止するためにも、すでに瑕疵は治ゆされたものとして、申立人一人を最高価競買人として許可決定を下されるよう求める。

よつて、抗告の趣旨記載の裁判を求める。

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